「捨てた絵を、もう一度描き直す」 まだ幼い頃、僕はよく絵を描いていた。 まっさらな紙に、動物や虫の絵を夢中で描いていたっけ。 子どもながらに、納得がいかないとすぐにくしゃくしゃにして捨ててしまった。 そんなことを、何度も繰り返していた。 ある日、絵の上手な友人ができた。 一緒に絵を描くのが楽しくて、よく並んで絵を描いていた。 その子は言ってくれた。 「君の絵は下手かもしれないけど、味がある。だから捨てないで」 そして、僕が捨てた絵を拾って、上手に修正してくれた、「せっかく描いたんだから、もったいないよ」って。 その言葉が、どこか心に残っていたのだと思う。 先日、ふとした拍子に 5年前のLINEのやりとりを見返した。 ちょうど付き合いはじめたばかりのずいぶんと前の頃のやりとりだ。 まだ、かけひきも疑いもなく、 ただ心をまっすぐに預けていた、そんな時期だった。 そのやりとりは、 まるで子どもの頃に描いていた絵のように、素直で、正直で、あたたかかった。 僕は、いったいどこで自分の気持ちをくしゃくしゃにして捨ててしまったんだろう。 人との関係で、いつから “うまく描こう”としすぎて、 “うまくいかせる”ことばかり覚えてしまったんだろう。 もし、 自分の気持ちを大事にしながら 誰かと関係を結ぶ方法があるとしたら? 僕は今、 昔捨ててしまった自分の絵を、 もう一度そっと広げてみている。 ゆがんだ線をなぞり直し、にじんだ色を、静かに重ねながら。 修正できるって、教えてくれた友人は、もう今はいない 捨てる前に、もう一度だけ、自分でまた描き直してみたいと思えたから また下手な気持ちを、修正しながら連絡してみよう。 元気?、、、 続く。
