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シナリオ「約款(やくそく)」

2026/10/25 17:37
シナリオ「約款(やくそく)」

シナリオ・約款(やくそく) さや香の声「なんでオイのもとに      さわるの」 大樹の声「さわってんよ、オイ」 部屋(六畳間)・夕刻  ─仁王立ちで弟、大樹(たい    き・六歳)を見下ろしている   さや香(八歳)。 台所─から、顔を覗かせる祖母セ         イ(喜寿きじゅ)。 セイ「まあ、ほんとによくケンカ   すっねえ。今度はなんが元   や?」 さや香。むくれ顔を向けて、 さや香「タイが、オイのぼうしばとった」 大樹「ねえちゃんのじゃなかや」 さや香「父ちゃんが残してくれた    の、前から約束しとったの    ッ」 大樹「ちぇっ、うそばっか。父ち   ゃんがずっとかぶってたぼう   しじゃなかか」 さや香「だけん、ずっと前からオ   イにくれるって言っとったの   ッ」 大樹「ふんッ、うそつきッ」  ─さや香の手から帽子を引った   くる。 さや香「アッ、こんバカッ─」 ─大樹。もう外に飛び出してい     る。  ・地団駄(じだんだ)を踏んで   悔しがるさや香。 セイ「なんもかわりばんこに使え   ばよかとに。ケンカばっかし   とったら、父ちゃん、浮かば   れんよ」 さや香。仏壇の父の遺影を見、不    意に黙る。 セイ「どがん気持ちで、あんたら   ば残していいったか─」 さや香「─ごめん」 セイ「分かったら、はようタイば   呼んでおいで。じき、母ちゃ   んも帰ってくるから」 さや香「はあい」 ─突っ掛けを履き、外に出る。  夕暮れの田舎道を、鼻歌をうた  いながらカラコロ歩き出す。 夕餉(ゆうげ)─食卓に乗った惣   菜。味噌汁。 大樹「まぁた、コロッケ?」 母、とわ子。じろっと大樹を見   る。 セイ「これ、またバチあたりな」 大樹。ペロッと舌を出す。 さや香の声「二年前、トラックの   運転手をしていた父が事故で   死んだ。突然車道に飛び出し   てきた犬を避けようとして、   反対車線の大型トレーラーと   衝突した─」 イメージ・煙を吐き横転したトラ     ック。  ─呆然と事故現場に立つとわ   子。ギュッとさや香の小さな   手を握りしめる。 さや香の声「あの日から、暮らし    が一変した。建てたばかり    の家も払い、手狭な借家に    越した。朝早くから母が働    きに出るようになり、代わ    って祖母がいつも傍(かた    わ)らにいるようになった    ─」 ・仏壇から供物を下げ、丁寧に合  掌するセイ。 さや香の声「祖母は何よりも仏壇   を大切にしていた。ご先祖の   供養は残されたもんの勤めだ   から、そう口癖の様に言って   いた─」 ・朝まだ来、仏壇に向かって経文      を唱えているセイ。 さや香「やばか、遅刻すっ、─」  ─バタバタと家を出かける。奥   から、 セイの声「ちゃんとお仏壇に手ば   合わせてから、出かけんさい   よッ」 ─帰宅し、直ぐに遊びに行こうとするさや香。 セイ「(顔を覗かせて)これ、ご先   祖にただいまの挨拶ばしたと   か?」 さや香の声「口うるさく思うこと   は何度もあったけれど、いつ   も優しい祖母が大好きだっ      た。だけど、あの日突然─」 さや香「─ただいま」  ─引き戸を開ける。  ─ランドセルを乱暴に放り投   げ、台所へ。  思い出したように仏壇の前に。  簡単に合掌。  再び台所へ。冷蔵庫を開け物色  するが何もない。仕方なく水道  水を飲む。  ─咳き込む音。 さや香「おばあちゃん?」  ─奥の間へ。 ・布団に伏せるように咳き込んで  いるセイ。 さや香「だいじょぶ?おばあちゃ    ん」  ─駆け寄り、背をさすってや   る。 セイ「(苦しげに)ありがとぉ─」 さや香「ここんとこ、具合ような   かね」  ─寝床の水差しからコップに注   ぐ。渡す。 セイ「ありがとぉ」─うまそうに   飲む。 さや香。クンクン、と辺りを嗅     ぐ。 セイ「ああ。膏薬(こうやく)臭   いやろう。ばあちゃん、あち   こち痛くてなぁ」 さや香「ううん。何でんない。       水、なくなったから、持って   くるね─」─立ち上がる。 セイ「水は、いらんよ。いっと   き、ここにいなさい」 さや香「あ、ああ。うん」 ─腰を下ろす。 セイ「悪かばってん、そこんバッ    グば取っておくれ─」 さや香。使い古された黒いバッグ   を渡す。 セイ「うん」 ─中を探り、小さなお守り袋を出  す。  さや香に差し出す。 セイ「さあちゃんに上げるよ。中   ば開けてごらん─」 さや香。袋を開ける。 さや香「─きれか!」─掌で輝い    ている石。 セイ「(笑って)瑠璃色やろう。見   る角度で色が変わるとぞ。特   別な石だけんね」 さや香「よかと?大切なもんじゃ   なかの?」 セイ「よかとよ。よかかい。よく   聞いておくれ─。ばあちゃん   は、もう長いことなか。じ   き、お迎えがくる」 さや香「何ゆうて?」 セイ「ばあちゃんには、分かるの   よ。わが死に目が。ずっと前   から、決まっとったことだけ   ん─さあちゃん?」 さや香。祖母を見る。 セイ「ばあちゃんはな、ホントは   まっと昔に死んでたと」 さや香「え?」 セイ「─御堂川があるばい?まぁ  だ、小さかった頃、今のタイと  同じくらいやった。ある夏の  日、川にはまってね。だばって  ん、そん石の主に助けられたと  ─」 さや香「─石の主?」 セイ「うん。あんな、さあちゃ   ん。本当に困ったことがあっ   たら、こん石ば持って御堂の   祠(ほこら)に行きんさい。   きっと救いがあっけん」 さや香「─うん。でん、おばあち     ゃん、へんなかこと言わん   で。まぁだ、死んだとりしち   ゃいけんよ」 セイ「─そうばいね。─さて、ま   た喉が渇いたね。すまんばっ   てん、やっぱい水ばくんでき   ておくれ─」 さや香「うん。まっとって」 ─立ち上がる。 セイ「さあちゃん─」 さや香「ん?(振り返る)」 セイ「こいから先、なんがあった   ごたっても、決して迷っては   いけんよ。必ず導きがあっけ   ん。ばあちゃんは、いつで   ん、あんたば護っとるけんね   ─」 さや香「(にっこり)うん」 セイ。さや香に向かって小さく手   を振る。 さや香の声「─それが最後の会話    だった」 ・水差しを持ったまま、立ち尽く  しているさや香。 さや香の声「命は、─さっきまで    確かに宿っていた命は、一    体どこへ行ってしまったの    だろう─」 ・眠るように横たわっているセ  イ。 ・セイの遺影─笑っている。 ─読経。部屋の隅で、 ・貰った石をじっと眺めているさ  や香。その眼から、涙が溢れ出  す。 さや香の声「四十九日から間もな   く、事件は起きた─」 ─闇の中を幾つもの光が蠢(うごめ)く。同時に、 声「大樹くーんッ」 声「おーいッ、タイキーッ─」 さや香の声「大樹がいなくなっ  た。一緒に遊びに入った森で足  を踏み外し、そのまま転げ落  ち、居場所が分からなくなった  ─」 家─台所で、毛布にくるまったま   ま、ガタガタ震えているさや   香。 ・忙しげに出かける支度をしてい  るとわ子。 とわ子「母ちゃん、消防団に行っ   てくるから。留守番しとって   ちょうだい。大丈夫、タイは   なんごともなくだけん」 さや香「母ちゃん、あのね」 とわ子「ん?」 さや香「あのね─」 とわ子「どがんしたと?」 さや香の声「言えなかった。原因   はわたしだなんて─」 さや香の記憶・森の中  ─大樹の被っている父親の形見   の帽子を引ったくる様に取り   上げるさや香。 ・目を吊り上げ、罵声(ばせい)  を叫びながらさや香を追いかけ  る大樹。さや香、笑いながら大  樹を振り返って、 さや香「タイののろま、ここまで   おいでッ」 大樹「まてッ、アッ─!」 身体ごとそっくり返る。同時に、  ─ガサササッ!と音がし、さや     香の視界から消える大樹。 さや香「─タイ?」─慌てて坂を    下る。 さや香「─タイ?」─大樹の姿を   探す。 ─急な勾配(こうばい)の向こう  に、崖。 さや香。蒼白に下を見る。  静まり返った森。 ─雨音。 さや香。窓ガラスに滴したたる雨    雫を見ている。 さや香「(泣きそうに)─タイ」  ─ふと思いつき、仏壇へ。 セイの声「困ったことがあった  ら、石ば持って、御堂の祠へ  ─」 仏壇。の引き出しを開ける。   お守り袋を取り出す。   父と祖母の位牌に手を合わせ   る。 さや香「父ちゃん、ばあちゃんま   もって」  ─傘を差すのももどかしく、家   を飛び出す。 御堂川─濁々と流れている。 小橋─急ぎ足で渡るさや香。激し   くなる雨脚。 祠─苔むしている。  ─息を切らして階段を昇り来る   さや香。 さや香の声「おばあちゃんに何度     か連れてこられた祠。大きな御  神木の根元にあって、地元では  河童の祠と呼ばれている。戦争  中、大規模な空襲があり、焼夷  弾(しょういだん)で焼けただ  れた人々を助けようと、河童た  ちがこの川に導いたと言う。御  堂川の水に浸かった人は、不思  議なことに皆、火傷が治り、村  人がお礼にこの祠をつくったと     聞かされた」 ─御神木を仰ぎ、祠の前に座り、  息を整えるさや香。  持って来たお守り袋を開ける。 石。雨に濡れても瑠璃色に輝いて  いる。 さや香「─やだ。どうすればよか   とろう」  ─迷った挙句、石を祠へ供え   る。合掌。 さや香「─どがんか、タイが見つ   かり、なんごともなくである   とごと」 ─益々激しさを増す雨脚。 さや香「どがんか、助けてくれん   ね─」突如、 声「なんばい?供物もねえと   か?」 さや香。ビクン、と周りを見回   す。 声「ここだよ。おめえん足元だ」 さや香。濡れそぼった足元を見     る。 ─さや香を見上げている、手の平  ほどの小人。  小さな箕(みの)を纏(まと)  い、不釣り合いな程大きな目  玉でさや香を見つめている。 さや香「きゃッ─!」 小人「なんばいよ?自分から呼び   出しといて、そいはねえやろ   が」 さや香。思わず息を飲む。 小人「ま、オイラが見ゆってこと  は、おめえも善人なんやろうが  よ」─瞬く間にさや香の服を伝  って、腕にまで昇る。祠の石に  気づいて、 小人「うん。知っとる。おめえ、  セイんがたのもんやろ。何度か  見かけとる。セイは義理堅いか  らの。いつっちゃ、ありがたく  供物ばいただいとるよ、うん」 さや香。やっと頷く。 小人「そう言えば、ここんとこ見  かけんなあ。セイは元気か  ─?」 さや香「─亡くなりました。つい   こん間」 小人「え?─ホントか?」 さや香。頷く。 ─間。小人、じっとさや香を見つめている。   ─その眼から突然、大粒の涙   が零れる。ハラハラと泣く小   人。戸惑うさや香。 さや香「あ、─あの」 小人「(泣きながら)おめえ、聞い  とったか?セイはオイラの許嫁  (いいなずけ)やったとぞ?」 さや香「え─?」 小人「セイは、オイラと結婚の約   束ばしたとぞ?」 さや香「けっこん─?」 小人。顔をくしゃくしゃにしたま   ま頷く。 小人「命ば助けてやった礼に、嫁  になるって言ったとぞ─。まぁ  だ、子どもやったばってん、き  れか娘でな、オイラ一目惚れし  たと。大人んなったら、結婚し  てくるって。─ばってん、ヒト  は業の深か生き物じゃ。ほんの  百年も寿命がなか。オイラ達の  長がなしてもダメげな言って─  泣く泣く諦めたじゃ─。最後に  おうたとは、セイが子ば宿し  た、と報告に来た時やった」 さや香。言葉が出ない。 小人「そうか。亡くなってしもう  たか─。やっぱいヒトは儚(は  かな)か生き物じゃのう─」  ─じっと項垂れ動かない小人。 さや香「あ、あの─」 小人。ぼんやり目を上げて、 小人「─ああ。おめえが、こん石   ば譲り受けたとか?」 さや香「あ、はい」 小人「─何か、困り事があっと   か?」 さや香「あ、─弟ば探してほしか   んばい。山ではぐれてしまお   ったとばい」 小人「─そうか。なら、仕方がね   えな、セイとの約束だけん   な。そん石がある限り、オイ   ラは約束ば守らんと。どれ、   ─石ば動かせばすっか」  ─ヒュウッ、と石に息を吹く。 石─きれいな粉を放つ。 小人。粉を吸い込む様にして大き  く呼吸して、じっと目を閉じ  る。 小人「─うん。大丈夫たい。おめ  えの弟はでかい洞(ほら)の開  いた木の根っこにいるとばい。  気ば失っとるごたっぱいな。で  ん、生きとる。─ん?」 さや香「え?」 小人「─いんや、なんでんねえ。  平気じゃ、じきにヒトが見つく  る」 さや香「─よかったぁ。ありがと   ぉ、小人さん」 ─大きく溜め息をつく。 小人「あ?小人じゃねえ、オイラ   達一族はトンチ、じゃ」 さや香「トン、─?」 小人「トンチじゃ、トンチ。北の  方じゃ、コロボックルとも呼ば  れとるらしか。セイから聞かさ  れんやったとか?オイラの名は  ウパシ、じゃ」 さや香「─ウパ、シさん?」 ウパシ。大きく頷いて、 ウパシ「(急に胸を張って)そうじ  ゃ。わが一族は、ヒトよりもは  るかに偉か。お前らヒトは、何  の力もなかくせに、霊長類なぞ  と言いおって、大いなる勘違い  ばしとる」 さや香「─なんか、ごめんなさ    い」 ウパシ「なんばい?素直じゃの。   おめえ、何て名だ?」 さや香「─さやか、です」 ウパシ「ほう─。そう言えば、セ  イに似とるなあ。クリクリした  目元なんて、そっくりやなか  か」 ─さや香を舐めまわす様に見て、 ウパシ「ふうん。血は争えんもん   だとなあ」 さや香「─あの、ホントに弟はな   んごともなくね?」 ウパシ「なんばいあ?疑ってんと  か?こん罰当たりが。こん石は  万能なんばいぞ。例えば千里ば  も見通す力があるとばい。オイ  ラ達のご先祖の御霊(みたま)   がありがたか神通力として宿し  とっとたい」 さや香「あ、─ごめんなさい」 ウパシ「まあ、よかや。おめえ、  素直だし、セイに似て可愛いか  ら。ホントは石もかやしてもら  おうかと思うとったばってん、  よかや。セイの気持ちば汲ん  で、おめえが持つことば認める  よ。ばってん、こん石の力と  は、だいにも秘密やぞ。よか  か?約束ば守れるか?」 さや香。大きく頷く。 ウパシ「よし、約束ばしたぞ。オ  イラ達の約束は絶対だぞ。破っ  たら必ず報いがあっけんな─」 さや香「─うん。分かりたばい」 ウパシ「うん。そしたら、また  な、なんかあったら、またここ  に来いや」 ─ストン、とさや香の腕から飛び  降りると、ガサガサ、と素早く  藪の中へ消える。 さや香。祠の石をお守り袋へしま    う。 ─ふと目線を感じ、振り返る。 ・降りしきる雨の向こうに、立っ  ている数人の人影。音もなく、  徐々にさや香に近づいてくる。  子どもの様な影も混じってい  る。 さや香「だ、だれ─?」 ─ざわざわと濡れそぼった木々が  揺れる。 声「─ウ、ウウ、ミ、ズ、─ア  ツ、カ─」 さや香。逃げ出そうとするが躰が   動かせない。 ・人影、更に近づく。 さや香。渾身の力を込め、 さや香「(叫ぶ)イ、いやッ─」次の瞬間、 影─ブワッ!と音を立てて消える。 ─ヘナヘナ、と座り込むさや香。遠くから、 ─救急車のサイレン。 病室─ベッドに横たわっている大    樹。傷だらけの顔、点滴の    管が痛々しい。 さや香の声「ウパシの言った通   り、大樹は助かった。だが、   元の通りの『無事』ではなか   った。あの時一瞬、ウパシが   言い淀(よど)んだのは、こ   のことだったのだろう─」 とわ子の声「ぜんぜん、聴こえん   とですか?こいから先も   ─?」 診察室 ─蒼白に医師と向き合っていると  わ子。 とわ子「治る見込みは─見込みは   なかとですか─?」 医師「(淡々と)様子を見て、人工  内耳が有効かどうか、ですな」 病室─眠っている大樹。傍に、        ─悄然と座っているとわ子。 さや香。 ラーメン屋─向き合って掛けてい   る母娘。 とわ子「─早く食べな?のびる    よ」 ・湯気を立てているラーメン。さや香、箸を割ったまま、手をつけようとしない。 とわ子「どがんしたと?母ちゃ   ん、先にいただくよ─」 さや香「─母ちゃん」 とわ子「─ん?(見る)」 さや香「─ごめんなさい。オイの   せいなの。─オイが悪かった   の。タイの、─タイの耳がき   こえんとは─(詰まる)」  ─俯いた目から、大粒の涙が零   れる。 さや香「─オイが、父ちゃんのぼ   うしば、とったりしたけん     ─」 とわ子「(優しく)だいのせいでん   なかとよ。事故なんばいけ   ん、あんたのせいなんかじゃ   なか─。よかから、早く食べ   な。ほれ、麺が増えとるよ」 さや香「─うん」 ─しゃくりあげながら、食べ始め  る。 さや香の声「─どんな感じなんだ   ろう。耳が聴こえないって   ─」 街・歩道─盲人用の標示を伝っ  て、白い杖をついた女性が歩い  ている。その不安な足取り。 さや香の声「(続けて)眼が見えな  いって、一体、どんな感じなん  だろう─」 ・女性が躓(つまず)く。おずお  ずと近寄ろうとするさや香。だ  が声を掛けられない。どこかの  婦人が躊躇(ちゅうちょ)なく  駆け寄り、声を掛ける。 さや香の声「─母ちゃんは事故  だ、と言った。けど、やっぱり  悪いのはわたしだ。責任はわた  しにある─」 祠─手を合わせているさや香。 ウパシの声「─なんばい?また頼   み事か?」 ─小さな石に腰掛け、腕組みをしてるウパシ。 ウパシ「─そりゃ、無理ばい」 さや香「え?なんで?こん石には  万能の力があるって─」 ウパシ「─病気は治せん。特に障  害は言ってみりゃ罹かかったも  んの宿業、定め、じゃ」 さや香「─しゅく、ごう?さだ   め?」 ウパシ「(頷いて)命、天寿ば与え    た神さんの決めた宿命たい。お  めえの弟はそいば試練として乗  り越えねばならん、自力でな。  だいもそいば邪魔しちゃいけね  んのだと」 さや香「でん、─」 ウパシ「─ずっと前、セイにも頼  まれた。爆弾で焼けた、父ちゃ  んと母ちゃんば助けてくれと。  なんとか川まで連れてきてやっ  たばってん、あとはどうすっこ  ともできんやった。ヒトが自分  たちで起こした戦いたい。関わ  りのなか生き物もいっぱい殺し  た。報いは自分らで受けにゃな  らん。セイの親は、焼けただれ  たまま御堂川の中で死んたい」 さや香の記憶─雨の日の人影。 ウパシの声「熱か、水ばくれ、そ   う言い遺しての─」  ウパシ「オイラ達は大体八百年は  生きるとばい。長か命ば許され  とるんたい。ヒトは違って寿命  が短い。百年もなか。何度も生  まれ変わって、前世からの宿業  ば乗り越ゆっごと色んな試練を  与えられとるんたい」 さや香「でん、そしたら、タイは  きこえんまま─」 ウパシ「─悪かばってんオイラに  は、どがんすうもできん。ホン  トはこうしておめえと話すんも  内緒で来とるんたい。長が、ど  がんすうもなくヒト好かんで  よ」 さや香「なして─?」 ウパシ「─裏切るからたい。ヒト  は、恩ば忘れ、簡単に裏切る  ─」 さや香。悲しげに項垂れる。 その様子を、遣る方無くじっと見つめるウパシ。 病室─ベッドで本を読んでいる大    樹。 さや香「タイ、─」 大樹。気づかない。 さや香「(大声で)タイッ─」 ─本から目を上げない大樹。 さや香。その眼に、涙が溢れる。 さや香の声「人工内耳を施術したが、改善は得られなかった─」 ・聾唖(ろうあ)学校─入学の手  続きに訪れるとわ子。 ─表情なく周りを見回しているタ  イ。 自宅─さや香。耳栓をつくり、両    耳を塞ぐ。 途端に─シン、と閉ざされる音。 ─テレビをつけて見る。じっと画面を見る。 ・アナウンサーの口元。音のない  世界。 さや香。その顔が、くしゃっと歪     む。その様子を、 ─物陰からそっと見ているウパ  シ。 満月─を仰いで、木の枝に掛けて   いるウパシ。その顔にある、   ある決心。 森(昼)─薮を掻き分けて獣道を    進むウパシ。 空─クルクルと輪を描くチョウゲ   ンポウ。ウパシの姿を捉え   る。急降下する。急襲。 ウパシ。襲い来るチョウゲンポウ    を一撃。 ウパシ「なめんな、バカ鳥がッ」 ─険しい道を急ぐウパシ。  その踊る様な姿態。 崖 ─超人的な身体能力で逆さに伝い  降りる。 ─殆ど垂直な断崖に咲いている花  を見つける。 ウパシ「─あった!」   ─懸命に指を伸ばす。 花─半透明な花弁をしている。 ウパシ「─ヨシッ!」─摘み取っ  た次の瞬間、岩肌を掴んでいた  手がずり落ちる。  ウパシ「アッ─!」─真っ逆さま  に落下─! ─川のせせらぎ。 ウパシ。ぼんやり目を開ける。  躰を動かそうとするが、麻痺し  た様に動かない。躰のあちこち  に貼り付けられた薬草。 声「動くんじゃなか。全身ば強く  打っとる」 ─薬草を煎じている、トンチの  長。 長「─そん花ば、どうすっつもり  じゃ」 ウパシ「─長、」 長。ウパシの半身を起こし、煎じ  薬を飲ませてやる。飲ませなが  ら、 長「そん花は天人のもとぞ。むや  みに摘むもんじゃなか」 ウパシ「─分かっとります」 長「どがんすっつもりじゃ」 ウパシ。目を逸らし口を閉ざす。 長「ふん、愚かもんが。またヒト  に関わっとるな?恩ば忘れ、我  らば追い立てる身勝手なヒトな  んぞに、なして情けばかけ  る?」 ウパシ「─ヒトげな、皆が皆、悪  か訳じゃなか」 長「はん!分かった様な事ば言う    な、こん若造がッ」 ウパシ。長を見る。懇願するよう     に、 ウパシ「頼むっけん。こいで最後  にすっから、どがんか─」 長「─よかろう、こいがしまいじ  ゃ。じゃが、よかかウパシ。お  前はヒトと交わらんゆう我らが  決め事ば破った。今後一切、森  から出ることは許さん。ヒトと  の関わりも絶ってもらう。記憶  ば取り上げるとばい。よかな」 月─新月。 さや香の家─寝間。狭い部屋で寄  り添うように眠っている三人の  親子。 ─カタン、と小さな物音。 さや香「(パッと目覚めて)だれ    ─?」 ウパシ「─オイラだ。ウパシ」 さや香「シッ、みんな起きちゃう   じゃなか」 ウパシ「平気げな。オイラは今、   おめえの夢枕に立っとると   ─」 さや香「(声をひそめて)どがんし   たと─」  ウパシ「へへへ─」─小さな瓶を   差し出す。 さや香「何、こい─?」 ウパシ「へへ、どがん病気にも効   く万能薬じゃ。死ぬ思いで探   し当とったとぞ」 さや香「─え?ホントに!ありが   とぉ!ウパシさん」 ウパシ「呼び捨てでよかよ。ウパ   シ、で」 さや香「ありがとぉ、ウパシ」 ウパシ「千願花と言って、どがん  病気でん治す。弟の耳も、じき  に治る。水に混ぜて飲ませ」 さや香「(大きく頷いて)ありがと  ぉ─!」 ウパシ「─うん。そんでなあ、さ  や香─代わりに、一つだけ願い  ば聞いてくれるか?」 さや香「─うん。なんでん言っ    て」 ウパシ「─森ば守ってくれ。祠の  ある、オイラ達の森ば。オイラ  達はヒトに追われ、ようやっと  あん森にたどり着いたと。終の  棲家(ついのすみか)の森ば追  われたら、もう行き場ばなくな  ってしまう。今のまま、どがん  か森ば守ってくれ。どがんか、  他のヒトんごと裏切らんと─」 さや香「─うん。分かった、絶対   約束すっ」 ウパシ「─うん、よかった。オイ   ラはおめえば信じてるから   な。あ、あと、石ばよこして   見な─」 ウパシ。腰に吊るした袋からナイ    フの様なものを取り出す。 さや香「なんすっと─?アッ、     ─」 ウパシ。自分の指先をナイフで切     り、滴る血を石に垂らす。目   を閉じ、何か呟く。 ウパシ「─よし、こいでよか。こ  いでもう祠まで来んでもよか。  なんかあったら、だいにも見ら  れんよう、願いば念じろ」 さや香。石を受け取り、小さく頷     く。 ウパシ「そしたら、オイラは帰る  から、な。(ふと寂しげに)元気  でな、さや香─」  さや香「あ、─ホントにありがと  ぉ。また、会いに来るけんね」 ウパシ「ああ、─うん。また、       な」  ─手を上げてスッと姿を消す。 さや香。ぼんやり目を開ける。 枕元─にある小さな瓶。 さや香の声「薬の効能は、劇的だ     った」 診察室─聴力検査をしている大     樹。 ・医師の驚き。とわ子の歓喜。 御堂川 ─川面に流れる無数の桜の花び  ら。 小学校校門 ─ピカピカのランドセルを背負  い、緊張した顔でピースサイン  を出す大樹。 ─ハンカチで潤んだ目を拭い、 とわ子「なんごともなく、があり    がたいね」 さや香の声「本当にその通りだ。   何よりも、無事がありがたか   った─」 祠─饅頭を供え、じっと手を合わ   せているさや香。 さや香「─ありがとぉ、タイの  耳、治ったばい。お礼にきたと  ばい─」  ─しばらく。チラと目を上げ   る。 御神木─さわさわと枝を揺らす。 さや香「─ウパシ?─出てきて     ─」 ─静まり返った森。さや香。首を傾げ立ち上がる。 ・所在なく木の根に腰を下ろすさ  や香。 ・うたた寝を始めるさや香。小鳥  の鳴き声。 さや香の声「─どうした訳か、そ  れから何度祠に行っても、ウパ  シには会えなかった」 イメージ・歳月の流れ(流れゆく四季) ─市街地を歩く成長したさや香。 ・友達と談笑しているさや香。 ・スマホを操作しているさや香。 ・恋人らしき男と楽しげに歩くさ  や香。 さや香の声「─そうしてわたし  は、次第に忘れていった。あん  なに願って、叶えたもらえたこ  とに感謝して、一生忘れないと  ─。そう誓った筈なのに─」 さや香の声「─うん。こがん田舎におっても、思うように勉強もできんやろう─?」 自宅 ─夕食を摂っているさや香。  とわ子。 とわ子「そがんこと─、ここにい   てもパソコンげなあるし、デ   ザインの勉強くらいでくんじ   ゃなかの?」 さや香「よかえ、やっぱい夢ば叶   ゆっには、都会に行かんと」 とわ子「もうちょっと、よく考え   た方がよかよ。一人暮らし   は、まぁだ早か─」 さや香「心配ならさ、こん際、み   んなで一緒に越してしまおう   よ。じき、タイも高校卒業す   っし。色々便利だよ、都会   は。欲しかもん、必要なも   ん、何でん揃っとるしさ」 とわ子「(笑って)母ちゃんは興味   なか─。何よりご先祖さん、   父ちゃん、ばあちゃんの墓ば   守ってやらんとね」 さや香「何言ってんの。今時、そ   がんの流行らんよ」 とわ子「(キッ、と)あんたこそ、   何言ってんの。ばあちゃんも   よく言っとったやろうが。オ   イたちが立つ地面の下には   ね、いっぱいの魂が眠っかと   っとよ。墓守は、残されとぉ   もんのせめてもの勤めやろう   が。そいば放り出して、身勝   手に越したりでくっもんかね   ─」 さや香。ペロッと舌を出す。 とわ子「とにかく、まっとよく考   えなさい。母ちゃん、こいか   ら組の寄り合いがあっけん。   遅くなるから、大樹にもご飯   食べさせてね」─自分の食器   を台所へ。 さや香「うん。なんや、最近しょ   っちゅうばいね。何の話しし   とるの?」 とわ子「御堂の森に、造成の話が   あると」 さや香「(箸を止めて)え─?」 とわ子「村の収益になる話しなん   ばいばってん、─あそこには   墓地もあっけんね。お墓ば移   すのは大事だけん」 さや香「─御堂の森って、御神木   の所も?」 とわ子「うん。だけん大事になっ   とっと。あの樹や祠は、そい   こそご先祖が護ってきた大切   なもんだけんとね─」 さや香。その耳に不意に、 ウパシの声「森ば、守ってくれ     ─」 さや香「あ─」 ウパシの声「オイラ達の森ば─」 さや香「ちょっと待って、オイも   来るとばい。行ってもよかや   ろう?」 とわ子「え?どがんしたと、急   に。よかばってん、なあんも   おもしろかことなかよ?」 さや香「何事も、社会勉強だけん    さ」 声「─だけん、言っとるやろう   が。村の発展のためにはあり   がたい話しなんばいぞ」 公民館─会している村民たち。 紅潮した顔で立ち上がっている役 員、寺井。 寺井「村民たちも高齢化が進んど  るとばい。若い者たちは町に出  たらそいっきり戻っては来ん。  こんままじゃ村は過疎化ば通り  越して限界集落んなってしま  う。Iターンブームとやらに乗  ったせっかくの開発たい。受け  入れん手はないじゃなかか」 村民1「─そうばってんかなあ。  今の計画て、御堂の森は根こそ  ぎ均されてしまうじゃなかか。  いくつもある墓地さえ移してし  まうだなんて、そいこそ長年墓  守ばしてきたご先祖にも申し訳  が立たとろう」 寺井「なんば言っとるとばい。だ  けん別に立派な墓地ば設けると  言ってくれとるじゃなかか。移  せばきげなきちんとお魂抜たま  しいぬきばして、改めて供養す  っとたい。罰当たりなことはな  いやろうが」 さや香「ばってん、森には他の生  き物たちもおるし、共存の生態  系ば無視すっとは人間の身勝手  て思うばい─」 寺井「(じろっと)だいだ、あんた   は」 とわ子「すまんばい、娘ばい。(さ  や香に)ちょっと、余計な口ば  挟まんで─」 さや香「なによ、余計じゃなか    よ」 寺井「なんば言っとる、村民が先  たい。オイたちの生きる術ば優  先せんで、どうすっとたい。子  どもんずっ幕じゃなか」 さや香「子どもじゃなか。選挙権   も持ってすっけんで?」 とわ子「(慌てて)ちょっと、さや   香─」 さや香の声「─そうだ。人は忘れ  る。どんな苦しみも、─どんな  恩でさえも─」 ・次第に白熱する村民たちの討  議。 さや香の声「かなりの額が動くの  だろう。つまりは金に、誰もが  ひざまづくのだ─」 村長の家 ─懸命に開発工事の中止を訴えるさや香。腕組みをし、困惑する村長。 寺井の家─対峙しているさや香。 寺井「─なぁんばバカなこと言っとるばい。トンチて?滑稽な作り話ばすっな」  ─トボトボと帰宅するさや香。 祠─石を供え目を閉じ、手を合わ   せているさや香。 さや香「─どがんか、どがんか、   森ば護って─ウパシ、ごめ   ん。約束ば守れんやも知れん   ─」遠くで、 ブルドーザーの機械音。始まった抜根の作業。 ─立ち上がり、御神木を見上げる さや香。 ・ポツリ、と雨が落ち始める。 ・吹き始め、次第に強まる風。 テレビの画面。季節はずれの低気圧の情報が流れている。 さや香の家(窓外)─雨と強風が窓を揺す。 とわ子「ひどか嵐ね─」 さや香。じっと窓外を見ている。 夜(寝間)─寝ている家族。暴風の      音。 さや香─寝返りを打つ。その耳に   突如、 声「あがんに、約束したやろう   ─」同時に、 ─雨漏りの雫が額に落ちる。 パチっと目覚めるさや香。ふと気配を感じ、辺りを見る。 ─ボウっと立っている大樹。 さや香「─ん?タイ、どがんした    と?」 大樹。動かずにじっと立ち尽くし    ている。 さや香「─タイ?」 大樹「(呟く)返さんと、─」 さや香「え?─」 大樹。そのまま寝間を出る。 さや香「なんばい、トイレか─」  ─間。 ─ガチャ、ガラガラ、と玄関の戸の開く音。 さや香。慌てて起き上がる。玄関     へ。 ─開けっ放しの戸から、吹き込んでくる突風。 ─傘も差さず夢遊病者の様に歩いて行く大樹。 さや香「─タイッ、どがんしたと     ─」 ─ズンズン遠ざかる大樹。 さや香。傘を持ち、急いで外へ。大樹を追う。  ─嵐の中小走りに急ぐさや香。いつの間にか大樹の姿を見失ってしまう。息を切らして、 さや香「─タイ」─懸命に辺りを    見回す。 ふと前方に、 ─チラチラ揺れる小さな灯り。 ─風雨に目を凝らす。─灯りに近  づく。 ─弱い光に照らされた人影。 さや香「─おばあちゃん!?」  ─ごくん、と唾をのむ。 ─手招きをしている様に見える人影。さや香、おずおずと近寄る。 ─一定の距離を置き、さや香を導くように進むセイの幻影。 ・暴風。水嵩を増し、激しい濁流の御堂川。 ─轟く雷鳴。小橋を渡る人影とさや香。 ─人影、スッと祠の方を指さし、灯りと共に消える。 御神木 ─の前に、ずぶ濡れで立ち尽くしている大樹。 さや香「(叫ぶ)タイッ─!」 大樹。無表情に振り向いて、 大樹「─返さんと、─」 さや香「何?なんば言っとっと    ─?」 大樹「耳、─耳ば、返さんと、    ─」  ─そのまま倒れる。同時に、 声「約束ば守らんかったやろう   ─」 ─雷鳴。稲光りに、─浮かび上がる幾つもの小さな人形のシルエット。その中に見覚えのある顔。 さや香「─ウパシ!」 ウパシ「ヒトが、まぁた裏切りよ    った」 さや香「ウパシ、ごめんなさい。    違うの─」 ウパシ「だいだ、お前は。なして   オイの名ば知っとる」 さや香「オイだ、さや香だよ。忘   れたと?」 ウパシ「知らん。ヒトとなんぞ、   交わりはなか」─ズイっと、   ウパシの前に立つ影。 影「─わしは、トンチの長じゃ。  こん男はお前ん願い出により、  神の恩ば受けた。わしらの約束  は絶対じゃ。約束ば守らん報い  じゃ、こやつの耳ばかやしても  らう─」 ─雷鳴。突風。さや香。思わず手  を翳す。 ウパシ。不意に目を見開き、さや    香を見る。 さや香の真後ろ、に─立っている    人影。 ウパシ「─あ?セ、イ?」 ─手を合わせ深く頭を下げている  セイの幻影。 ウパシ。その顔に、急激に蘇る記    憶。 ウパシ「─あ、─さや香」 長「森は永劫に生き続けとる。森  羅万象、地の恵み、水の恵み、  風の恵み、全てば忘れ思い上が  り、たかがヒトが、万物の霊長  のごたっと名乗りおって。昔、  わしらが何度も助けやった恩ば  忘れおって、─わしらはこん森  に三百年住まわしてもらっと  る。なら、わしらが先たい。後  から来たもとが、勝手に立ち入  ることは許さん─!」  ─大樹を向き、天を仰ぎ手を振   り下ろす。 ─稲光り。轟く雷鳴。次の瞬間、 ─バシャーンッ!と激しい落雷。同時に、 ウパシ「イカンッ─!」  ─大樹の顔に覆い被さる。  樹木を裂き、直撃する落雷。 さや香「(叫ぶ)アッ─!」 長「(同時に)ウパシ─!」 ─大地を伝う地響き。立ち上る燻った煙。 ─動かない大樹。  覆い被さったままのウパシ。 ─ウパシ。仰向けにずり落ちる。 長「─なんばしとる、こんバカ  が!なして、─なして恩知らず  のヒトば、庇う─」 ウパシ「(朦朧と)長、─ヒトにも  色々あるとばい。悪かもんばっ  かいじゃ、なか─どがんゆうた  っちゃオイラの知るもとは、─  恩ば、知っとる─」ガクン、と  首を落とす。 長。─吼(ほ)える。途端に、   ─荒れ狂う風雨。 ─氾濫する御堂川。民家に襲いか  かる。 ─突風。木々をなぎ倒し、工事車  両に被さる。 さや香の声「─村は甚大な被害を  被った。ずっと後まで語り継が  れる様な、酷いものだった─だ  がけが人はいたが、幸い犠牲者  が一人も出なかったのは─」 晴天─浸水した部屋を掃除してい   る人々。 祠─供物を供え、手を合わせているさや香。と大樹。 さや香の声「タイが無事だったのは─」 さや香「(合掌)─ウパシ。ありがとぉ」   ─その眼から、涙が零れる。 御神木─見上げているさや香。 さや香の声「開発は突如、取りや  めになった。作業員たちが原因  不明の高熱で次々倒れたから  だ。森の祟(たた)りだ、とパ  ッと噂が広がり、その噂の主  は、─」 工事現場・事務所─たむろしている作業員たち。 作業員1「─オイんとこにも出た    よ、夕べ。見たこともねえ、婆  さんがよ」 作業員2「─ホントか」 作業員1「森の使いて、山に手ば  入れると、祟らるっ、とよ」 さや香の家─夕食を摂っている母       娘。 とわ子「─あ、そう言えばあん   た、東京に来る話はどがんし   たと?」 さや香「やめた。母ちゃんの言う   ており勉強はどこでん、でく   っし。─あ、ねえ、墓守っ   て、何かやり方とかってある   と─?手伝うから、教えて   よ」 とわ子「(笑って)なあに?急にど   がんしたと?」 さや香「─いいからさあ、手伝い   たいんやけん早う教えてよ」  ─そう言って頬を赤く染める。                  シナリオ「約款(やくそく)      ─了─

啓結(けいゆう)先生

啓結(けいゆう)
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  • 複雑愛を越え、結婚成就を現実へ結んだ鑑定力
  • 著名俳優をも導いた、確かな助言力
  • 声に宿る波で、愛の無意識を読み解く
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