シナリオ・約款(やくそく) さや香の声「なんでオイのもとに さわるの」 大樹の声「さわってんよ、オイ」 部屋(六畳間)・夕刻 ─仁王立ちで弟、大樹(たい き・六歳)を見下ろしている さや香(八歳)。 台所─から、顔を覗かせる祖母セ イ(喜寿きじゅ)。 セイ「まあ、ほんとによくケンカ すっねえ。今度はなんが元 や?」 さや香。むくれ顔を向けて、 さや香「タイが、オイのぼうしばとった」 大樹「ねえちゃんのじゃなかや」 さや香「父ちゃんが残してくれた の、前から約束しとったの ッ」 大樹「ちぇっ、うそばっか。父ち ゃんがずっとかぶってたぼう しじゃなかか」 さや香「だけん、ずっと前からオ イにくれるって言っとったの ッ」 大樹「ふんッ、うそつきッ」 ─さや香の手から帽子を引った くる。 さや香「アッ、こんバカッ─」 ─大樹。もう外に飛び出してい る。 ・地団駄(じだんだ)を踏んで 悔しがるさや香。 セイ「なんもかわりばんこに使え ばよかとに。ケンカばっかし とったら、父ちゃん、浮かば れんよ」 さや香。仏壇の父の遺影を見、不 意に黙る。 セイ「どがん気持ちで、あんたら ば残していいったか─」 さや香「─ごめん」 セイ「分かったら、はようタイば 呼んでおいで。じき、母ちゃ んも帰ってくるから」 さや香「はあい」 ─突っ掛けを履き、外に出る。 夕暮れの田舎道を、鼻歌をうた いながらカラコロ歩き出す。 夕餉(ゆうげ)─食卓に乗った惣 菜。味噌汁。 大樹「まぁた、コロッケ?」 母、とわ子。じろっと大樹を見 る。 セイ「これ、またバチあたりな」 大樹。ペロッと舌を出す。 さや香の声「二年前、トラックの 運転手をしていた父が事故で 死んだ。突然車道に飛び出し てきた犬を避けようとして、 反対車線の大型トレーラーと 衝突した─」 イメージ・煙を吐き横転したトラ ック。 ─呆然と事故現場に立つとわ 子。ギュッとさや香の小さな 手を握りしめる。 さや香の声「あの日から、暮らし が一変した。建てたばかり の家も払い、手狭な借家に 越した。朝早くから母が働 きに出るようになり、代わ って祖母がいつも傍(かた わ)らにいるようになった ─」 ・仏壇から供物を下げ、丁寧に合 掌するセイ。 さや香の声「祖母は何よりも仏壇 を大切にしていた。ご先祖の 供養は残されたもんの勤めだ から、そう口癖の様に言って いた─」 ・朝まだ来、仏壇に向かって経文 を唱えているセイ。 さや香「やばか、遅刻すっ、─」 ─バタバタと家を出かける。奥 から、 セイの声「ちゃんとお仏壇に手ば 合わせてから、出かけんさい よッ」 ─帰宅し、直ぐに遊びに行こうとするさや香。 セイ「(顔を覗かせて)これ、ご先 祖にただいまの挨拶ばしたと か?」 さや香の声「口うるさく思うこと は何度もあったけれど、いつ も優しい祖母が大好きだっ た。だけど、あの日突然─」 さや香「─ただいま」 ─引き戸を開ける。 ─ランドセルを乱暴に放り投 げ、台所へ。 思い出したように仏壇の前に。 簡単に合掌。 再び台所へ。冷蔵庫を開け物色 するが何もない。仕方なく水道 水を飲む。 ─咳き込む音。 さや香「おばあちゃん?」 ─奥の間へ。 ・布団に伏せるように咳き込んで いるセイ。 さや香「だいじょぶ?おばあちゃ ん」 ─駆け寄り、背をさすってや る。 セイ「(苦しげに)ありがとぉ─」 さや香「ここんとこ、具合ような かね」 ─寝床の水差しからコップに注 ぐ。渡す。 セイ「ありがとぉ」─うまそうに 飲む。 さや香。クンクン、と辺りを嗅 ぐ。 セイ「ああ。膏薬(こうやく)臭 いやろう。ばあちゃん、あち こち痛くてなぁ」 さや香「ううん。何でんない。 水、なくなったから、持って くるね─」─立ち上がる。 セイ「水は、いらんよ。いっと き、ここにいなさい」 さや香「あ、ああ。うん」 ─腰を下ろす。 セイ「悪かばってん、そこんバッ グば取っておくれ─」 さや香。使い古された黒いバッグ を渡す。 セイ「うん」 ─中を探り、小さなお守り袋を出 す。 さや香に差し出す。 セイ「さあちゃんに上げるよ。中 ば開けてごらん─」 さや香。袋を開ける。 さや香「─きれか!」─掌で輝い ている石。 セイ「(笑って)瑠璃色やろう。見 る角度で色が変わるとぞ。特 別な石だけんね」 さや香「よかと?大切なもんじゃ なかの?」 セイ「よかとよ。よかかい。よく 聞いておくれ─。ばあちゃん は、もう長いことなか。じ き、お迎えがくる」 さや香「何ゆうて?」 セイ「ばあちゃんには、分かるの よ。わが死に目が。ずっと前 から、決まっとったことだけ ん─さあちゃん?」 さや香。祖母を見る。 セイ「ばあちゃんはな、ホントは まっと昔に死んでたと」 さや香「え?」 セイ「─御堂川があるばい?まぁ だ、小さかった頃、今のタイと 同じくらいやった。ある夏の 日、川にはまってね。だばって ん、そん石の主に助けられたと ─」 さや香「─石の主?」 セイ「うん。あんな、さあちゃ ん。本当に困ったことがあっ たら、こん石ば持って御堂の 祠(ほこら)に行きんさい。 きっと救いがあっけん」 さや香「─うん。でん、おばあち ゃん、へんなかこと言わん で。まぁだ、死んだとりしち ゃいけんよ」 セイ「─そうばいね。─さて、ま た喉が渇いたね。すまんばっ てん、やっぱい水ばくんでき ておくれ─」 さや香「うん。まっとって」 ─立ち上がる。 セイ「さあちゃん─」 さや香「ん?(振り返る)」 セイ「こいから先、なんがあった ごたっても、決して迷っては いけんよ。必ず導きがあっけ ん。ばあちゃんは、いつで ん、あんたば護っとるけんね ─」 さや香「(にっこり)うん」 セイ。さや香に向かって小さく手 を振る。 さや香の声「─それが最後の会話 だった」 ・水差しを持ったまま、立ち尽く しているさや香。 さや香の声「命は、─さっきまで 確かに宿っていた命は、一 体どこへ行ってしまったの だろう─」 ・眠るように横たわっているセ イ。 ・セイの遺影─笑っている。 ─読経。部屋の隅で、 ・貰った石をじっと眺めているさ や香。その眼から、涙が溢れ出 す。 さや香の声「四十九日から間もな く、事件は起きた─」 ─闇の中を幾つもの光が蠢(うごめ)く。同時に、 声「大樹くーんッ」 声「おーいッ、タイキーッ─」 さや香の声「大樹がいなくなっ た。一緒に遊びに入った森で足 を踏み外し、そのまま転げ落 ち、居場所が分からなくなった ─」 家─台所で、毛布にくるまったま ま、ガタガタ震えているさや 香。 ・忙しげに出かける支度をしてい るとわ子。 とわ子「母ちゃん、消防団に行っ てくるから。留守番しとって ちょうだい。大丈夫、タイは なんごともなくだけん」 さや香「母ちゃん、あのね」 とわ子「ん?」 さや香「あのね─」 とわ子「どがんしたと?」 さや香の声「言えなかった。原因 はわたしだなんて─」 さや香の記憶・森の中 ─大樹の被っている父親の形見 の帽子を引ったくる様に取り 上げるさや香。 ・目を吊り上げ、罵声(ばせい) を叫びながらさや香を追いかけ る大樹。さや香、笑いながら大 樹を振り返って、 さや香「タイののろま、ここまで おいでッ」 大樹「まてッ、アッ─!」 身体ごとそっくり返る。同時に、 ─ガサササッ!と音がし、さや 香の視界から消える大樹。 さや香「─タイ?」─慌てて坂を 下る。 さや香「─タイ?」─大樹の姿を 探す。 ─急な勾配(こうばい)の向こう に、崖。 さや香。蒼白に下を見る。 静まり返った森。 ─雨音。 さや香。窓ガラスに滴したたる雨 雫を見ている。 さや香「(泣きそうに)─タイ」 ─ふと思いつき、仏壇へ。 セイの声「困ったことがあった ら、石ば持って、御堂の祠へ ─」 仏壇。の引き出しを開ける。 お守り袋を取り出す。 父と祖母の位牌に手を合わせ る。 さや香「父ちゃん、ばあちゃんま もって」 ─傘を差すのももどかしく、家 を飛び出す。 御堂川─濁々と流れている。 小橋─急ぎ足で渡るさや香。激し くなる雨脚。 祠─苔むしている。 ─息を切らして階段を昇り来る さや香。 さや香の声「おばあちゃんに何度 か連れてこられた祠。大きな御 神木の根元にあって、地元では 河童の祠と呼ばれている。戦争 中、大規模な空襲があり、焼夷 弾(しょういだん)で焼けただ れた人々を助けようと、河童た ちがこの川に導いたと言う。御 堂川の水に浸かった人は、不思 議なことに皆、火傷が治り、村 人がお礼にこの祠をつくったと 聞かされた」 ─御神木を仰ぎ、祠の前に座り、 息を整えるさや香。 持って来たお守り袋を開ける。 石。雨に濡れても瑠璃色に輝いて いる。 さや香「─やだ。どうすればよか とろう」 ─迷った挙句、石を祠へ供え る。合掌。 さや香「─どがんか、タイが見つ かり、なんごともなくである とごと」 ─益々激しさを増す雨脚。 さや香「どがんか、助けてくれん ね─」突如、 声「なんばい?供物もねえと か?」 さや香。ビクン、と周りを見回 す。 声「ここだよ。おめえん足元だ」 さや香。濡れそぼった足元を見 る。 ─さや香を見上げている、手の平 ほどの小人。 小さな箕(みの)を纏(まと) い、不釣り合いな程大きな目 玉でさや香を見つめている。 さや香「きゃッ─!」 小人「なんばいよ?自分から呼び 出しといて、そいはねえやろ が」 さや香。思わず息を飲む。 小人「ま、オイラが見ゆってこと は、おめえも善人なんやろうが よ」─瞬く間にさや香の服を伝 って、腕にまで昇る。祠の石に 気づいて、 小人「うん。知っとる。おめえ、 セイんがたのもんやろ。何度か 見かけとる。セイは義理堅いか らの。いつっちゃ、ありがたく 供物ばいただいとるよ、うん」 さや香。やっと頷く。 小人「そう言えば、ここんとこ見 かけんなあ。セイは元気か ─?」 さや香「─亡くなりました。つい こん間」 小人「え?─ホントか?」 さや香。頷く。 ─間。小人、じっとさや香を見つめている。 ─その眼から突然、大粒の涙 が零れる。ハラハラと泣く小 人。戸惑うさや香。 さや香「あ、─あの」 小人「(泣きながら)おめえ、聞い とったか?セイはオイラの許嫁 (いいなずけ)やったとぞ?」 さや香「え─?」 小人「セイは、オイラと結婚の約 束ばしたとぞ?」 さや香「けっこん─?」 小人。顔をくしゃくしゃにしたま ま頷く。 小人「命ば助けてやった礼に、嫁 になるって言ったとぞ─。まぁ だ、子どもやったばってん、き れか娘でな、オイラ一目惚れし たと。大人んなったら、結婚し てくるって。─ばってん、ヒト は業の深か生き物じゃ。ほんの 百年も寿命がなか。オイラ達の 長がなしてもダメげな言って─ 泣く泣く諦めたじゃ─。最後に おうたとは、セイが子ば宿し た、と報告に来た時やった」 さや香。言葉が出ない。 小人「そうか。亡くなってしもう たか─。やっぱいヒトは儚(は かな)か生き物じゃのう─」 ─じっと項垂れ動かない小人。 さや香「あ、あの─」 小人。ぼんやり目を上げて、 小人「─ああ。おめえが、こん石 ば譲り受けたとか?」 さや香「あ、はい」 小人「─何か、困り事があっと か?」 さや香「あ、─弟ば探してほしか んばい。山ではぐれてしまお ったとばい」 小人「─そうか。なら、仕方がね えな、セイとの約束だけん な。そん石がある限り、オイ ラは約束ば守らんと。どれ、 ─石ば動かせばすっか」 ─ヒュウッ、と石に息を吹く。 石─きれいな粉を放つ。 小人。粉を吸い込む様にして大き く呼吸して、じっと目を閉じ る。 小人「─うん。大丈夫たい。おめ えの弟はでかい洞(ほら)の開 いた木の根っこにいるとばい。 気ば失っとるごたっぱいな。で ん、生きとる。─ん?」 さや香「え?」 小人「─いんや、なんでんねえ。 平気じゃ、じきにヒトが見つく る」 さや香「─よかったぁ。ありがと ぉ、小人さん」 ─大きく溜め息をつく。 小人「あ?小人じゃねえ、オイラ 達一族はトンチ、じゃ」 さや香「トン、─?」 小人「トンチじゃ、トンチ。北の 方じゃ、コロボックルとも呼ば れとるらしか。セイから聞かさ れんやったとか?オイラの名は ウパシ、じゃ」 さや香「─ウパ、シさん?」 ウパシ。大きく頷いて、 ウパシ「(急に胸を張って)そうじ ゃ。わが一族は、ヒトよりもは るかに偉か。お前らヒトは、何 の力もなかくせに、霊長類なぞ と言いおって、大いなる勘違い ばしとる」 さや香「─なんか、ごめんなさ い」 ウパシ「なんばい?素直じゃの。 おめえ、何て名だ?」 さや香「─さやか、です」 ウパシ「ほう─。そう言えば、セ イに似とるなあ。クリクリした 目元なんて、そっくりやなか か」 ─さや香を舐めまわす様に見て、 ウパシ「ふうん。血は争えんもん だとなあ」 さや香「─あの、ホントに弟はな んごともなくね?」 ウパシ「なんばいあ?疑ってんと か?こん罰当たりが。こん石は 万能なんばいぞ。例えば千里ば も見通す力があるとばい。オイ ラ達のご先祖の御霊(みたま) がありがたか神通力として宿し とっとたい」 さや香「あ、─ごめんなさい」 ウパシ「まあ、よかや。おめえ、 素直だし、セイに似て可愛いか ら。ホントは石もかやしてもら おうかと思うとったばってん、 よかや。セイの気持ちば汲ん で、おめえが持つことば認める よ。ばってん、こん石の力と は、だいにも秘密やぞ。よか か?約束ば守れるか?」 さや香。大きく頷く。 ウパシ「よし、約束ばしたぞ。オ イラ達の約束は絶対だぞ。破っ たら必ず報いがあっけんな─」 さや香「─うん。分かりたばい」 ウパシ「うん。そしたら、また な、なんかあったら、またここ に来いや」 ─ストン、とさや香の腕から飛び 降りると、ガサガサ、と素早く 藪の中へ消える。 さや香。祠の石をお守り袋へしま う。 ─ふと目線を感じ、振り返る。 ・降りしきる雨の向こうに、立っ ている数人の人影。音もなく、 徐々にさや香に近づいてくる。 子どもの様な影も混じってい る。 さや香「だ、だれ─?」 ─ざわざわと濡れそぼった木々が 揺れる。 声「─ウ、ウウ、ミ、ズ、─ア ツ、カ─」 さや香。逃げ出そうとするが躰が 動かせない。 ・人影、更に近づく。 さや香。渾身の力を込め、 さや香「(叫ぶ)イ、いやッ─」次の瞬間、 影─ブワッ!と音を立てて消える。 ─ヘナヘナ、と座り込むさや香。遠くから、 ─救急車のサイレン。 病室─ベッドに横たわっている大 樹。傷だらけの顔、点滴の 管が痛々しい。 さや香の声「ウパシの言った通 り、大樹は助かった。だが、 元の通りの『無事』ではなか った。あの時一瞬、ウパシが 言い淀(よど)んだのは、こ のことだったのだろう─」 とわ子の声「ぜんぜん、聴こえん とですか?こいから先も ─?」 診察室 ─蒼白に医師と向き合っていると わ子。 とわ子「治る見込みは─見込みは なかとですか─?」 医師「(淡々と)様子を見て、人工 内耳が有効かどうか、ですな」 病室─眠っている大樹。傍に、 ─悄然と座っているとわ子。 さや香。 ラーメン屋─向き合って掛けてい る母娘。 とわ子「─早く食べな?のびる よ」 ・湯気を立てているラーメン。さや香、箸を割ったまま、手をつけようとしない。 とわ子「どがんしたと?母ちゃ ん、先にいただくよ─」 さや香「─母ちゃん」 とわ子「─ん?(見る)」 さや香「─ごめんなさい。オイの せいなの。─オイが悪かった の。タイの、─タイの耳がき こえんとは─(詰まる)」 ─俯いた目から、大粒の涙が零 れる。 さや香「─オイが、父ちゃんのぼ うしば、とったりしたけん ─」 とわ子「(優しく)だいのせいでん なかとよ。事故なんばいけ ん、あんたのせいなんかじゃ なか─。よかから、早く食べ な。ほれ、麺が増えとるよ」 さや香「─うん」 ─しゃくりあげながら、食べ始め る。 さや香の声「─どんな感じなんだ ろう。耳が聴こえないって ─」 街・歩道─盲人用の標示を伝っ て、白い杖をついた女性が歩い ている。その不安な足取り。 さや香の声「(続けて)眼が見えな いって、一体、どんな感じなん だろう─」 ・女性が躓(つまず)く。おずお ずと近寄ろうとするさや香。だ が声を掛けられない。どこかの 婦人が躊躇(ちゅうちょ)なく 駆け寄り、声を掛ける。 さや香の声「─母ちゃんは事故 だ、と言った。けど、やっぱり 悪いのはわたしだ。責任はわた しにある─」 祠─手を合わせているさや香。 ウパシの声「─なんばい?また頼 み事か?」 ─小さな石に腰掛け、腕組みをしてるウパシ。 ウパシ「─そりゃ、無理ばい」 さや香「え?なんで?こん石には 万能の力があるって─」 ウパシ「─病気は治せん。特に障 害は言ってみりゃ罹かかったも んの宿業、定め、じゃ」 さや香「─しゅく、ごう?さだ め?」 ウパシ「(頷いて)命、天寿ば与え た神さんの決めた宿命たい。お めえの弟はそいば試練として乗 り越えねばならん、自力でな。 だいもそいば邪魔しちゃいけね んのだと」 さや香「でん、─」 ウパシ「─ずっと前、セイにも頼 まれた。爆弾で焼けた、父ちゃ んと母ちゃんば助けてくれと。 なんとか川まで連れてきてやっ たばってん、あとはどうすっこ ともできんやった。ヒトが自分 たちで起こした戦いたい。関わ りのなか生き物もいっぱい殺し た。報いは自分らで受けにゃな らん。セイの親は、焼けただれ たまま御堂川の中で死んたい」 さや香の記憶─雨の日の人影。 ウパシの声「熱か、水ばくれ、そ う言い遺しての─」 ウパシ「オイラ達は大体八百年は 生きるとばい。長か命ば許され とるんたい。ヒトは違って寿命 が短い。百年もなか。何度も生 まれ変わって、前世からの宿業 ば乗り越ゆっごと色んな試練を 与えられとるんたい」 さや香「でん、そしたら、タイは きこえんまま─」 ウパシ「─悪かばってんオイラに は、どがんすうもできん。ホン トはこうしておめえと話すんも 内緒で来とるんたい。長が、ど がんすうもなくヒト好かんで よ」 さや香「なして─?」 ウパシ「─裏切るからたい。ヒト は、恩ば忘れ、簡単に裏切る ─」 さや香。悲しげに項垂れる。 その様子を、遣る方無くじっと見つめるウパシ。 病室─ベッドで本を読んでいる大 樹。 さや香「タイ、─」 大樹。気づかない。 さや香「(大声で)タイッ─」 ─本から目を上げない大樹。 さや香。その眼に、涙が溢れる。 さや香の声「人工内耳を施術したが、改善は得られなかった─」 ・聾唖(ろうあ)学校─入学の手 続きに訪れるとわ子。 ─表情なく周りを見回しているタ イ。 自宅─さや香。耳栓をつくり、両 耳を塞ぐ。 途端に─シン、と閉ざされる音。 ─テレビをつけて見る。じっと画面を見る。 ・アナウンサーの口元。音のない 世界。 さや香。その顔が、くしゃっと歪 む。その様子を、 ─物陰からそっと見ているウパ シ。 満月─を仰いで、木の枝に掛けて いるウパシ。その顔にある、 ある決心。 森(昼)─薮を掻き分けて獣道を 進むウパシ。 空─クルクルと輪を描くチョウゲ ンポウ。ウパシの姿を捉え る。急降下する。急襲。 ウパシ。襲い来るチョウゲンポウ を一撃。 ウパシ「なめんな、バカ鳥がッ」 ─険しい道を急ぐウパシ。 その踊る様な姿態。 崖 ─超人的な身体能力で逆さに伝い 降りる。 ─殆ど垂直な断崖に咲いている花 を見つける。 ウパシ「─あった!」 ─懸命に指を伸ばす。 花─半透明な花弁をしている。 ウパシ「─ヨシッ!」─摘み取っ た次の瞬間、岩肌を掴んでいた 手がずり落ちる。 ウパシ「アッ─!」─真っ逆さま に落下─! ─川のせせらぎ。 ウパシ。ぼんやり目を開ける。 躰を動かそうとするが、麻痺し た様に動かない。躰のあちこち に貼り付けられた薬草。 声「動くんじゃなか。全身ば強く 打っとる」 ─薬草を煎じている、トンチの 長。 長「─そん花ば、どうすっつもり じゃ」 ウパシ「─長、」 長。ウパシの半身を起こし、煎じ 薬を飲ませてやる。飲ませなが ら、 長「そん花は天人のもとぞ。むや みに摘むもんじゃなか」 ウパシ「─分かっとります」 長「どがんすっつもりじゃ」 ウパシ。目を逸らし口を閉ざす。 長「ふん、愚かもんが。またヒト に関わっとるな?恩ば忘れ、我 らば追い立てる身勝手なヒトな んぞに、なして情けばかけ る?」 ウパシ「─ヒトげな、皆が皆、悪 か訳じゃなか」 長「はん!分かった様な事ば言う な、こん若造がッ」 ウパシ。長を見る。懇願するよう に、 ウパシ「頼むっけん。こいで最後 にすっから、どがんか─」 長「─よかろう、こいがしまいじ ゃ。じゃが、よかかウパシ。お 前はヒトと交わらんゆう我らが 決め事ば破った。今後一切、森 から出ることは許さん。ヒトと の関わりも絶ってもらう。記憶 ば取り上げるとばい。よかな」 月─新月。 さや香の家─寝間。狭い部屋で寄 り添うように眠っている三人の 親子。 ─カタン、と小さな物音。 さや香「(パッと目覚めて)だれ ─?」 ウパシ「─オイラだ。ウパシ」 さや香「シッ、みんな起きちゃう じゃなか」 ウパシ「平気げな。オイラは今、 おめえの夢枕に立っとると ─」 さや香「(声をひそめて)どがんし たと─」 ウパシ「へへへ─」─小さな瓶を 差し出す。 さや香「何、こい─?」 ウパシ「へへ、どがん病気にも効 く万能薬じゃ。死ぬ思いで探 し当とったとぞ」 さや香「─え?ホントに!ありが とぉ!ウパシさん」 ウパシ「呼び捨てでよかよ。ウパ シ、で」 さや香「ありがとぉ、ウパシ」 ウパシ「千願花と言って、どがん 病気でん治す。弟の耳も、じき に治る。水に混ぜて飲ませ」 さや香「(大きく頷いて)ありがと ぉ─!」 ウパシ「─うん。そんでなあ、さ や香─代わりに、一つだけ願い ば聞いてくれるか?」 さや香「─うん。なんでん言っ て」 ウパシ「─森ば守ってくれ。祠の ある、オイラ達の森ば。オイラ 達はヒトに追われ、ようやっと あん森にたどり着いたと。終の 棲家(ついのすみか)の森ば追 われたら、もう行き場ばなくな ってしまう。今のまま、どがん か森ば守ってくれ。どがんか、 他のヒトんごと裏切らんと─」 さや香「─うん。分かった、絶対 約束すっ」 ウパシ「─うん、よかった。オイ ラはおめえば信じてるから な。あ、あと、石ばよこして 見な─」 ウパシ。腰に吊るした袋からナイ フの様なものを取り出す。 さや香「なんすっと─?アッ、 ─」 ウパシ。自分の指先をナイフで切 り、滴る血を石に垂らす。目 を閉じ、何か呟く。 ウパシ「─よし、こいでよか。こ いでもう祠まで来んでもよか。 なんかあったら、だいにも見ら れんよう、願いば念じろ」 さや香。石を受け取り、小さく頷 く。 ウパシ「そしたら、オイラは帰る から、な。(ふと寂しげに)元気 でな、さや香─」 さや香「あ、─ホントにありがと ぉ。また、会いに来るけんね」 ウパシ「ああ、─うん。また、 な」 ─手を上げてスッと姿を消す。 さや香。ぼんやり目を開ける。 枕元─にある小さな瓶。 さや香の声「薬の効能は、劇的だ った」 診察室─聴力検査をしている大 樹。 ・医師の驚き。とわ子の歓喜。 御堂川 ─川面に流れる無数の桜の花び ら。 小学校校門 ─ピカピカのランドセルを背負 い、緊張した顔でピースサイン を出す大樹。 ─ハンカチで潤んだ目を拭い、 とわ子「なんごともなく、があり がたいね」 さや香の声「本当にその通りだ。 何よりも、無事がありがたか った─」 祠─饅頭を供え、じっと手を合わ せているさや香。 さや香「─ありがとぉ、タイの 耳、治ったばい。お礼にきたと ばい─」 ─しばらく。チラと目を上げ る。 御神木─さわさわと枝を揺らす。 さや香「─ウパシ?─出てきて ─」 ─静まり返った森。さや香。首を傾げ立ち上がる。 ・所在なく木の根に腰を下ろすさ や香。 ・うたた寝を始めるさや香。小鳥 の鳴き声。 さや香の声「─どうした訳か、そ れから何度祠に行っても、ウパ シには会えなかった」 イメージ・歳月の流れ(流れゆく四季) ─市街地を歩く成長したさや香。 ・友達と談笑しているさや香。 ・スマホを操作しているさや香。 ・恋人らしき男と楽しげに歩くさ や香。 さや香の声「─そうしてわたし は、次第に忘れていった。あん なに願って、叶えたもらえたこ とに感謝して、一生忘れないと ─。そう誓った筈なのに─」 さや香の声「─うん。こがん田舎におっても、思うように勉強もできんやろう─?」 自宅 ─夕食を摂っているさや香。 とわ子。 とわ子「そがんこと─、ここにい てもパソコンげなあるし、デ ザインの勉強くらいでくんじ ゃなかの?」 さや香「よかえ、やっぱい夢ば叶 ゆっには、都会に行かんと」 とわ子「もうちょっと、よく考え た方がよかよ。一人暮らし は、まぁだ早か─」 さや香「心配ならさ、こん際、み んなで一緒に越してしまおう よ。じき、タイも高校卒業す っし。色々便利だよ、都会 は。欲しかもん、必要なも ん、何でん揃っとるしさ」 とわ子「(笑って)母ちゃんは興味 なか─。何よりご先祖さん、 父ちゃん、ばあちゃんの墓ば 守ってやらんとね」 さや香「何言ってんの。今時、そ がんの流行らんよ」 とわ子「(キッ、と)あんたこそ、 何言ってんの。ばあちゃんも よく言っとったやろうが。オ イたちが立つ地面の下には ね、いっぱいの魂が眠っかと っとよ。墓守は、残されとぉ もんのせめてもの勤めやろう が。そいば放り出して、身勝 手に越したりでくっもんかね ─」 さや香。ペロッと舌を出す。 とわ子「とにかく、まっとよく考 えなさい。母ちゃん、こいか ら組の寄り合いがあっけん。 遅くなるから、大樹にもご飯 食べさせてね」─自分の食器 を台所へ。 さや香「うん。なんや、最近しょ っちゅうばいね。何の話しし とるの?」 とわ子「御堂の森に、造成の話が あると」 さや香「(箸を止めて)え─?」 とわ子「村の収益になる話しなん ばいばってん、─あそこには 墓地もあっけんね。お墓ば移 すのは大事だけん」 さや香「─御堂の森って、御神木 の所も?」 とわ子「うん。だけん大事になっ とっと。あの樹や祠は、そい こそご先祖が護ってきた大切 なもんだけんとね─」 さや香。その耳に不意に、 ウパシの声「森ば、守ってくれ ─」 さや香「あ─」 ウパシの声「オイラ達の森ば─」 さや香「ちょっと待って、オイも 来るとばい。行ってもよかや ろう?」 とわ子「え?どがんしたと、急 に。よかばってん、なあんも おもしろかことなかよ?」 さや香「何事も、社会勉強だけん さ」 声「─だけん、言っとるやろう が。村の発展のためにはあり がたい話しなんばいぞ」 公民館─会している村民たち。 紅潮した顔で立ち上がっている役 員、寺井。 寺井「村民たちも高齢化が進んど るとばい。若い者たちは町に出 たらそいっきり戻っては来ん。 こんままじゃ村は過疎化ば通り 越して限界集落んなってしま う。Iターンブームとやらに乗 ったせっかくの開発たい。受け 入れん手はないじゃなかか」 村民1「─そうばってんかなあ。 今の計画て、御堂の森は根こそ ぎ均されてしまうじゃなかか。 いくつもある墓地さえ移してし まうだなんて、そいこそ長年墓 守ばしてきたご先祖にも申し訳 が立たとろう」 寺井「なんば言っとるとばい。だ けん別に立派な墓地ば設けると 言ってくれとるじゃなかか。移 せばきげなきちんとお魂抜たま しいぬきばして、改めて供養す っとたい。罰当たりなことはな いやろうが」 さや香「ばってん、森には他の生 き物たちもおるし、共存の生態 系ば無視すっとは人間の身勝手 て思うばい─」 寺井「(じろっと)だいだ、あんた は」 とわ子「すまんばい、娘ばい。(さ や香に)ちょっと、余計な口ば 挟まんで─」 さや香「なによ、余計じゃなか よ」 寺井「なんば言っとる、村民が先 たい。オイたちの生きる術ば優 先せんで、どうすっとたい。子 どもんずっ幕じゃなか」 さや香「子どもじゃなか。選挙権 も持ってすっけんで?」 とわ子「(慌てて)ちょっと、さや 香─」 さや香の声「─そうだ。人は忘れ る。どんな苦しみも、─どんな 恩でさえも─」 ・次第に白熱する村民たちの討 議。 さや香の声「かなりの額が動くの だろう。つまりは金に、誰もが ひざまづくのだ─」 村長の家 ─懸命に開発工事の中止を訴えるさや香。腕組みをし、困惑する村長。 寺井の家─対峙しているさや香。 寺井「─なぁんばバカなこと言っとるばい。トンチて?滑稽な作り話ばすっな」 ─トボトボと帰宅するさや香。 祠─石を供え目を閉じ、手を合わ せているさや香。 さや香「─どがんか、どがんか、 森ば護って─ウパシ、ごめ ん。約束ば守れんやも知れん ─」遠くで、 ブルドーザーの機械音。始まった抜根の作業。 ─立ち上がり、御神木を見上げる さや香。 ・ポツリ、と雨が落ち始める。 ・吹き始め、次第に強まる風。 テレビの画面。季節はずれの低気圧の情報が流れている。 さや香の家(窓外)─雨と強風が窓を揺す。 とわ子「ひどか嵐ね─」 さや香。じっと窓外を見ている。 夜(寝間)─寝ている家族。暴風の 音。 さや香─寝返りを打つ。その耳に 突如、 声「あがんに、約束したやろう ─」同時に、 ─雨漏りの雫が額に落ちる。 パチっと目覚めるさや香。ふと気配を感じ、辺りを見る。 ─ボウっと立っている大樹。 さや香「─ん?タイ、どがんした と?」 大樹。動かずにじっと立ち尽くし ている。 さや香「─タイ?」 大樹「(呟く)返さんと、─」 さや香「え?─」 大樹。そのまま寝間を出る。 さや香「なんばい、トイレか─」 ─間。 ─ガチャ、ガラガラ、と玄関の戸の開く音。 さや香。慌てて起き上がる。玄関 へ。 ─開けっ放しの戸から、吹き込んでくる突風。 ─傘も差さず夢遊病者の様に歩いて行く大樹。 さや香「─タイッ、どがんしたと ─」 ─ズンズン遠ざかる大樹。 さや香。傘を持ち、急いで外へ。大樹を追う。 ─嵐の中小走りに急ぐさや香。いつの間にか大樹の姿を見失ってしまう。息を切らして、 さや香「─タイ」─懸命に辺りを 見回す。 ふと前方に、 ─チラチラ揺れる小さな灯り。 ─風雨に目を凝らす。─灯りに近 づく。 ─弱い光に照らされた人影。 さや香「─おばあちゃん!?」 ─ごくん、と唾をのむ。 ─手招きをしている様に見える人影。さや香、おずおずと近寄る。 ─一定の距離を置き、さや香を導くように進むセイの幻影。 ・暴風。水嵩を増し、激しい濁流の御堂川。 ─轟く雷鳴。小橋を渡る人影とさや香。 ─人影、スッと祠の方を指さし、灯りと共に消える。 御神木 ─の前に、ずぶ濡れで立ち尽くしている大樹。 さや香「(叫ぶ)タイッ─!」 大樹。無表情に振り向いて、 大樹「─返さんと、─」 さや香「何?なんば言っとっと ─?」 大樹「耳、─耳ば、返さんと、 ─」 ─そのまま倒れる。同時に、 声「約束ば守らんかったやろう ─」 ─雷鳴。稲光りに、─浮かび上がる幾つもの小さな人形のシルエット。その中に見覚えのある顔。 さや香「─ウパシ!」 ウパシ「ヒトが、まぁた裏切りよ った」 さや香「ウパシ、ごめんなさい。 違うの─」 ウパシ「だいだ、お前は。なして オイの名ば知っとる」 さや香「オイだ、さや香だよ。忘 れたと?」 ウパシ「知らん。ヒトとなんぞ、 交わりはなか」─ズイっと、 ウパシの前に立つ影。 影「─わしは、トンチの長じゃ。 こん男はお前ん願い出により、 神の恩ば受けた。わしらの約束 は絶対じゃ。約束ば守らん報い じゃ、こやつの耳ばかやしても らう─」 ─雷鳴。突風。さや香。思わず手 を翳す。 ウパシ。不意に目を見開き、さや 香を見る。 さや香の真後ろ、に─立っている 人影。 ウパシ「─あ?セ、イ?」 ─手を合わせ深く頭を下げている セイの幻影。 ウパシ。その顔に、急激に蘇る記 憶。 ウパシ「─あ、─さや香」 長「森は永劫に生き続けとる。森 羅万象、地の恵み、水の恵み、 風の恵み、全てば忘れ思い上が り、たかがヒトが、万物の霊長 のごたっと名乗りおって。昔、 わしらが何度も助けやった恩ば 忘れおって、─わしらはこん森 に三百年住まわしてもらっと る。なら、わしらが先たい。後 から来たもとが、勝手に立ち入 ることは許さん─!」 ─大樹を向き、天を仰ぎ手を振 り下ろす。 ─稲光り。轟く雷鳴。次の瞬間、 ─バシャーンッ!と激しい落雷。同時に、 ウパシ「イカンッ─!」 ─大樹の顔に覆い被さる。 樹木を裂き、直撃する落雷。 さや香「(叫ぶ)アッ─!」 長「(同時に)ウパシ─!」 ─大地を伝う地響き。立ち上る燻った煙。 ─動かない大樹。 覆い被さったままのウパシ。 ─ウパシ。仰向けにずり落ちる。 長「─なんばしとる、こんバカ が!なして、─なして恩知らず のヒトば、庇う─」 ウパシ「(朦朧と)長、─ヒトにも 色々あるとばい。悪かもんばっ かいじゃ、なか─どがんゆうた っちゃオイラの知るもとは、─ 恩ば、知っとる─」ガクン、と 首を落とす。 長。─吼(ほ)える。途端に、 ─荒れ狂う風雨。 ─氾濫する御堂川。民家に襲いか かる。 ─突風。木々をなぎ倒し、工事車 両に被さる。 さや香の声「─村は甚大な被害を 被った。ずっと後まで語り継が れる様な、酷いものだった─だ がけが人はいたが、幸い犠牲者 が一人も出なかったのは─」 晴天─浸水した部屋を掃除してい る人々。 祠─供物を供え、手を合わせているさや香。と大樹。 さや香の声「タイが無事だったのは─」 さや香「(合掌)─ウパシ。ありがとぉ」 ─その眼から、涙が零れる。 御神木─見上げているさや香。 さや香の声「開発は突如、取りや めになった。作業員たちが原因 不明の高熱で次々倒れたから だ。森の祟(たた)りだ、とパ ッと噂が広がり、その噂の主 は、─」 工事現場・事務所─たむろしている作業員たち。 作業員1「─オイんとこにも出た よ、夕べ。見たこともねえ、婆 さんがよ」 作業員2「─ホントか」 作業員1「森の使いて、山に手ば 入れると、祟らるっ、とよ」 さや香の家─夕食を摂っている母 娘。 とわ子「─あ、そう言えばあん た、東京に来る話はどがんし たと?」 さや香「やめた。母ちゃんの言う ており勉強はどこでん、でく っし。─あ、ねえ、墓守っ て、何かやり方とかってある と─?手伝うから、教えて よ」 とわ子「(笑って)なあに?急にど がんしたと?」 さや香「─いいからさあ、手伝い たいんやけん早う教えてよ」 ─そう言って頬を赤く染める。 シナリオ「約款(やくそく) ─了─
